岩本隆史の日記帳(アーカイブ)

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『夜の来訪者』を観た

新宿・紀伊国屋ホールで『夜の来訪者』という演劇を観た。段田安則が演出、段田のほかに高橋克実渡辺えり、坂井真紀、八嶋智人岡本健一、梅沢昌代が出演するというので期待していたのだが、期待外れだった。

坂井と岡本の婚約が祝われているさなかの邸宅に、段田演じる警官が訪れ、「今日、若い女性が消毒薬を飲んで自殺した」と告げる。家族めいめいが女性に対して働いた悪事を尋問によって暴かれるというストーリー。

そう書くと面白そうなのだが、これらの悪事がことごとく小悪なのだ。たとえば、労組を率いて賃上げ要求する女性を、高橋演じる社長が解雇した、という例が悪として描かれる。これが自殺の最初の引き金だというのだ。確かにそうなのかもしれないが、社長の立場に立ってみれば言いがかりとしか思えない。不当解雇について責められるのならまだしも、その後自殺したことまで責められる筋合いはない。不当解雇されても自殺しない人はいる。

一事が万事この調子で、警官が憤った態度で尋問する理由が私には理解できなかった。勧善懲悪を表現したいならば、悪人はもっとひどい悪事を働くべきだ。

しかも結末はホラー風味。自身のなした悪のせいで怖い思いをするのはホラーの一類型だが、この終わり方ではいかんせん罰が重すぎる。この路線で行くなら、段田をイカれた警官に仕立て、一家に不当な要求をする不条理劇にしたほうがずっと面白かっただろう。